2011.9.20
第9回縮小社会研究会報告

 
時:2011年9月15日(木)13時−17時
場所:京都大学物理工学校舎112室
 
1. 「経済成長と温室効果ガス排出量との関係」 宇仁宏幸(京都大学経済学研究科)
  IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第4次報告書によると、世界の平均気温は1906〜2005年の百年間に0.74℃上昇した。この原因は二酸化炭をはじめとする温室効果ガスが自然の吸収量を超えて増大し続けていることであると推定されている。この報告書によると、産業革命前と比べた気温上昇を2.0〜2.4℃に抑えるには、先進国の二酸化炭素排出量を2020年に1990年比で25〜40%削減することが必要であり、さらに2050年に80〜95%削減することが必要である。
  Daly (1996)によると、経済は生態系(ecosystem)のサブシステムである。したがって経済の規模には上限があり、それは生態系の再生力と吸収力のうち、いずれか小さい方の能力によって規定される。しかし、生態系の制約を受けていることを無視したこれまでの経済成長の結果、今日の多くの国と地域の経済は、この上限を超えており、生態系の自己調節機能はすでに損傷していると考えられる。その証拠のひとつが地球温暖化であろう。
  マルクスも含めて、大部分の経済理論は、富の生産と再生産や労働の生産力・生産性に焦点を当ててきた。生産などの人間活動が生態系に及ぼす再生不可能な破壊力や破壊性を理論化する本格的試みが始まったのが20世紀の半ばである。そして、今日、富の生産と生態系の破壊との間に何らかの結びつきがあることは広く認識されているとしても、生産力と破壊力との関係、労働の生産性変化と破壊性変化との関係に関する理論的・数量的な分析は少なく、定説といえるものも見当たらない。本稿の第1の目的は、1990年代以降の先進諸国における温室効果ガス排出と経済成長との関係を数量的に分析することにより、「定型化された事実」を明らかにすることである。特に重要なのは、ある制度的条件下では温室効果ガス排出削減と経済成長が両立するという事実である。本稿の第2の目的は、「定型化された事実」を、累積的因果連関モデルを用いて分析することである。温室効果ガス排出削減と経済成長とは両立するとしても、両者の間には部分的ジレンマが存在することを明らかにする。したがって、温室効果ガス排出削減を優先するか経済成長を優先するかは政治的選択となる。
2. 「縮小社会への道」 松久寛(京都大学工学研究科)
  人口減少,景気の後退,CO2の25%削減,電力の15%削減など縮小は既に始まっている.世相を示すキーワードは成長から持続に変化してきたが,縮小という言葉はタブーである.これまで,成長は善であり成長が止まれば会社は倒産するという常識が支配してきた.しかし,成長にも量的拡大という意味と中身の充実という量と質のふたつの意味がある.人間も20歳までは量と質の成長をし,それ以後は質の成長になる.本講演で用いる縮小という言葉は,量は減じるが質は向上するという意味である.
  資源の枯渇は40年先とか100年先とか言われているが,いまだに,世界の資源使用量は増加している.このまま,増加を続けると奪い合いの戦いになるであろう.太平洋戦争も石油禁輸が大きな原因であった.イラクやリビアは石油戦争であるともいえる.そこで,修羅場を回避するには,使用量を縮小し,定常安定状態に漸近する必要がある.縮小量は,資源の残存可採年数を50年とすると毎年2%削減すれば,永遠に可採年数は50年になる.100年ならば毎年1%である.これは可能な数字である.
  また,資源についても量のみならず質についても議論する必要がある.すなわち,石油はエンジンの燃料,繊維,プラスチック,肥料,薬になる.これを単に暖房のためだけに燃やすのはもったいない.さらに,エネルギーの貯蔵の可否が重要である.すなわち,石油はポリタンクで貯蔵運搬できるが,電気や水素ガスは大変難しい.また,将来に関しては,「科学技術の進歩」に期待するといわれるが,可能なことと不可能なことがある.大型エンジンの効率はほぼ限界に達しているが,その排熱の利用はまだ可能である.自動車は,速度や自動車のサイズやなどの変更を含めると省エネは可能である.家電製品の効率上昇も使用法の転換も含めると可能である.このように,技術の進歩と使用法の改善でもって,いくらかの省エネは可能である.これと,使用量自体の縮減をもって,資源の使用量の縮小プランを提示し,縮小社会の姿を論じる.
 
松久寛 〒606-8501 京都市左京区吉田本町 京都大学工学研究科機械理工学専攻
Tel & Fax : 075-753-5225  E-mail : matsuhisa(at)me.kyoto-u.ac.jp (出欠のご連絡はこちらにお願いします)
縮小社会研究会のHP: http://vibration.jp/shrink/ (本HP)