2008.6.17
縮小社会での技術とは
松久 寛
 
 ヨーロッパの人々に比べて,日本人は高所得なのに貧しいといわれている.都市住民はマイホームのために働いているようなものである.土地代は別として,日本の都市での住宅は30年で建て替えられている.すなわち,30年で3000万円を使っているのである.毎年100万円である.これをヨーロッパの人々と同じようにバカンスに使いたいものである.ヨーロッパでは,300年ぐらいの前の家を改造しつつ使用している.日本では,解体された家は廃材となり,資源,環境の面においても問題となる.日本でも少なくとも100年もつ家を作り,改造を重ねることは可能である.また,年齢,家族構成などライフスタイルの変化に伴って,ヤドカリのごとく引越しをすればいいのではないか.
 昨年,30年以上前の扇風機が発火事故を起こした.これは多くのことを提起している.企業に30年前の製品まで責任をとらすのか.30年間使える製品を作ったのは褒めるべきある.10年,20年で捨てているはもったいない.30年も使われると,企業は新製品が売れなくて困る.などなど.車や電気製品も家と同様に新品との買い替えが当たり前になっている.自分でやれるような部品交換で30年は使えるものを普及させたいものである.
 ライフサイクルエンジニアリングという言葉がささやかれて久しく,それが,環境問題の解決案のように捉えられている.しかし,これは,廃棄するときに資源として分別しやすくするものであり,短期間で廃棄することに変わりはない.廃棄物から鉄やプラスチックなどを分別し,それを溶かして,再度資源とするものである.この過程で,大量のエネルギーが使用されるので,わずかな資源の再利用のために大量の石油を消費している.
 縮小社会というと,江戸時代に戻れというのかといわれる.長期的にはイエスであろう.それが,長い先であることを望むが30年後にやってくるかも知れない.また,その前に地球温暖化の海面上昇で日本の沿岸部の都市は海に沈むかもしれない.しかし,そこに行き着くまでの過渡期の技術を今から考える必要がある.滋賀県の嘉田知事は「もったいない」というキャッチフレーズで当選した.人々はすでに縮小社会の答えを実感として知っているのである.しかし,企業の新製品の宣伝と,目先の価格の安さに惑わされているのではないか.1年あたりの原価償却という視点で考えると,200万円の30年もつ自動車の方が,150万円の10年もつ自動車より安いのである.このような自動車を作ることは,技術的は簡単である.現にタクシー仕様は一般仕様に換算すると30年使用可能であり,価格も安い.磨耗する部品やゴムや樹脂の部材を10年毎に簡単に取り替えられる構造にすればよいであろう.その結果,企業は生産量が減ることになる.これには,ドイツのように労働のタイムシェアリングなどの社会制度の転換が必要である.
 縮小社会の技術とは,丈夫で長持ちする製品を作ることである.問題は,新製品のコマーシャルで洗脳された消費者の意識であるが,これも,すでに「もったいないイズム」は人々の心にあるのだから,経済的に有利であることを明白にすれば,済むことである.